術者

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庭の薔薇が見事に咲き誇っていた。シファーは自室で宿題をしていた。ミカはリビングでいつもの読書だ。アカデミーの宿題を終える頃、シファーは部屋を見渡した。かつては、母親のディオの部屋だった。バラ柄の壁紙はディオが張り替えたらしい。窓際の壁が一部浮いてるように見えた。今まで気づかなかったが、壁を手で触ってみると、やはり、少し浮いている。何故だろうか?壁紙は切れ目なく貼られている。気づかれないように、その下を隠しているようだった。シファーは戸惑った。母親が何か隠したんだろうか?誰かに見つからないように?一体、誰から隠したんだろうか?何を? シファーは、壁紙の浮いてるところの端を爪で引っ掻いてみた。壁紙は分厚く、切れ目もないので、引っ掻く程度では、破けなかった。シファーは思い切ってカッターを持ち出した。ふくらみに沿ってカッターを入れた。壁紙を上からめくった。両端にもカッターを入れた。目に入ったのは、壁に埋め込まれた金庫のようだった。取っ手はなく、鍵穴が1つあるだけだった。シファーは、押してみたが、何もおこらない。"鍵がいるんだ" ガッカリしたシファーは、鍵はどこにあるのか、考えた。しかし、思いあたる場所も、知ってそうな人もわからない。母親は、隠したかったのだ。鍵は母親が持っていたはずだ。という事は、誰にも開けられない。シファーは、仕方なく、元通り壁紙を張り直した。シファーは、中に何があるのか知りたくてしばらくその事で頭はいっぱいだった。 何か大事な物か?それとも、既に母親は金庫から出したのか?一体全体、何を隠すために金庫を作ったんだろうか? ミカの魔術書よりも興味があった。しかし、考えても堂々巡りだった。 "ミカに聞いてみようか?"だが、ミカが知ってるとは思わなかった。何度も部屋に入ってるではないか。マスターも同じだ。仕官の2人もそうだ。誰か知ってる人はいないのだろうか? 金庫には興味があったが、毎日の生活や宮殿の行事に追われ、シファーは徐々に忘れていった。「どうせ、鍵がないと開かない」のだ。鍵のある場所も思い当たらなかった。何故か、シファーは、誰にも話さなかった。なぜだろう?シファーにとっては、母親と自分だけを繋ぐ大事な秘密に思えた。
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