限定犯罪者

幽霊

　殉市は幼い日々を思い出していた。
　5歳のとき、はじめて蚊を殺した。
　蚊、というか？生物をはじめて殺した。
　そのときから11歳になるまでずっと透明だった。寂しかったが、イジメとかを経験したことがないの救いだ。
　嫌なことがあったら虫を殺して逃げればよかった。
　殉市は1994年生まれだ。
　バブルはとっくに崩壊していた。
　父親の名前が岡田市郎って名前だ。『カワイイ赤ちゃんだ。子供は親に尽くすためにいるんだ。死ぬときは一緒だぞ』そういう理由から『殉市』と名づけられた。
　市郎は刑事でリクルート事件を担当したこともある。
　2月1日に森永製菓が「ウイダーinゼリー」を発売した。友達には木下ウイダーって名前のがいる。
　4月11日にはTBS、人気アトラクション番組『関口宏の東京フレンドパークII』放送開始（2011年3月終了）。
　4月19日にはテレビ東京、人気鑑定番組『開運!なんでも鑑定団』放送開始。
　5歳のときに父方の実家がある群馬県藤阿久町に出かけた。家のすぐ近くは東武伊勢崎線が走っている。夏休みだったと思う。1人で稲荷神社に昆虫採集に出かけた。
　クワガタやとんぼをつかまえた。
　網や虫籠は祖父からもらった。
　皆に自慢してやろう！
　空が暗くなってきたので帰ろうとしていると、どこからともなく蚊が飛んできて殉市の腕に止まった。
　蚊の分際で！ムカつくんだよ！
　パチンッ！
　蚊を叩き殺した。　
　ヨッシャ！あー！クソ痒い！
　家に戻ったらジーちゃんにキンカンつけてもらおう。今はビッグエコーやらアマゾンやらが出来てさかえたが、あの頃は何もなかった。
　家に戻ってきた。向日葵が夕陽に照らされている。チャイムを押した。クソ痒い！刺されたところが赤くプックリしている。
「はいはいー、殉ちゃん？」
　引き戸が開き、祖母が出てきた。
　祖母が腰を抜かしている。　
「ヒェェ！虫籠が浮いている！」
「どうしたのバアちゃん！」
　祖母は引き戸を閉めて家に入ってしまった。
　ボケがはじまってしまったのだろうか？
　もう1度チャイムを押した。
「はいはーい」
　祖母がドアを開けた。
「ヒェェ！網まで浮いてる！助けてぇ！」
　丁度、後ろから祖父がやって来た。　
　畑にでも行ってたのだろう？祖父母は農家を営んでいる。
「ジーさん、お化けが出たんだよ」
「何を馬鹿なことを」
　2人が話し込んでいる間に家に入った。