第四章

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 それは、司族で行われる、一年に一度の聖祭の日だった。カイを恐れ、掟を恐れ、怯えながら生きる司族にとって、その心に潤いを齎す、大切な日だった。 美味しい食べ物を、子供が喜ぶ遊具を、女性を華やかにする飾りを、男性が楽しむ遊行を。様々な出店を集い、ただ心ゆくまで笑うことが許される日。  だが、悪魔はそれを許さなかった。  初め、真弥は祭りの余興か何かだと思ったと言う。なにしろ、その警戒音が鳴るのは真弥が生まれてから初めてのことだった。 しかし、頭領や長老の表情を見て、察する。すぐに頭領について、兄の怜生と一緒に真弥は避難勧告を出し、村民を誘導し始めた。  叫び声が飛び交う。あちこちの民家で花火が暴発しているようだった。さらに、声は悲鳴へと変わる。 風が、鎌鼬のように人々の身体を切り裂いていた。  村の中央にある池の水が虎の形となり、土の手が地中から伸び、木の葉が刃になり、村中を襲った。  村民を集め、父と怜生と三人で結界を張っていた真弥は、恐ろしさに震えていた。  カイの力の強大さは、司では太刀打ちできないと、目の前の現実が強制的に悟らせていた。 「姿を見せられよ、カイの人」  長老の声が低く響く。四方を見回し、警戒する。見えない敵に、皆怯えている。  薔薇の花びらが、宙を舞った。それは突然のことだった。  司の村に、薔薇は咲いていない。  不思議に思う間もなく、花びらは一箇所に集まり、収束し、やがて人の姿となっていった。
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