第四章

4/37
前へ
/175ページ
次へ
 薔薇から現れた悪魔を美しいと、真弥は束の間思った。  司と同じ、茶色がかった髪に、漆黒の瞳。  雪のように白い肌が、整った顔立ちを引き立たせていた。  だが、恐ろしく冷たく、情のない目をしていた。  見ていると、心が芯から凍るほど。 「なぜこのようなことを」  長老が問う。薔薇の悪魔は何も答えない。村を見渡し、目を細めただけだ。 「なんとか言えよっ」  怒り猛る怜生が悪魔に飛び掛った。  悪魔は右手を差し出し、何か呟いた。  怜生の動きが止まる。  時間が止まったのかと、真弥は思う。  しかし、そうではなかった。怜生の身体が静かに崩れ落ちる。あっという間の出来事だった。  倒れている兄の元へ駆けつけたかったが、抜けた兄の分まで結界に力を注いでいた真弥は、一歩も動けず、歯を食いしばるだけだった。 「お前らが江梨花を苦しめた」  悪魔が両手を天に掲げる。悪魔の頭上で、空気が渦巻いている。  次第に、火花が散り、渦巻く大気は炎の塊となっていった。揺らめき輝く火球が、司を赤く照らす。 「お前達に生きる価値はない」
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加