第四章

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「シン、治療するんだろ?」  翔の問いに、うろたえたのは真弥だった。 「でも、早く行かなきゃ」  真弥の気持ちは理解できた。いつまた沙貴が襲ってくるかわからない状況で、唯一対抗し得る力を持っている自身が村から離れているのだ。一刻も早く村へ帰りたいはずだった。  だが、だからといって患者を無視できない。しかし意外にも、シンは真弥に同意した。 「今は司へ行くのが先決です」 「はあ?何言ってんだよ。患者を見殺しにしてもいいってのかよ」  シンが口籠る。どうも様子がおかしいことに気付く。司に行くことに迷ってみたり、先を急いだり、シンが何を考えているのか、翔は測りかねていた。  行く先の結論が出ぬままにいると、道の先で祠に向かって手を合わせ、拝んでいる女性を見つけた。何やら一心に祈っている。 「駄目だ。早く行きましょう」  あからさまにシンの態度はおかしかった。こんな彼は初めて見る。だが翔は構わず、女性に近づいて行った。 「どうかしたんですか?」  しゃがんでいた女性が翔を見上げる。  茶色がかった髪に、漆黒の瞳。  美しい、穏やかそうな女性だった。  唐突に話しかけてきた余所者である翔に対して怪訝な顔もせず、微笑みを投げ掛けてくる。 「主人が病に。治るよう、祈ってました」  当たりだ。翔は確信した。真弥も観念したようで、翔の後についてきた。  シンもその後ろを歩いてきていたが、顔は、真っ青だった。
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