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女性の名は杉下陽子と言った。養母と三人で村に住んでいるという。陽子の家を、翔達は訪れた。
「遠慮なく食べてくださいね」
夕飯時ということで、翔達三人は居間で食事に呼ばれた。山の幸がふんだんの、質素だが美味しそうな料理を前に、翔の喉が鳴る。
「いただきます」
見る見るうちに出された料理を平らげる翔の食いっぷりを見て、陽子は楽しそうに微笑んだ。陽子の義母、昌子も快くおかわりをついでくれている。
「陽子さんも昌子さんも料理上手っすね」
翔の言葉に、二人は嬉しそうに笑った。
腹の虫が満足いくまで食べた翔は、一服すると姿勢を正し、陽子を見た。
「ご主人が病気って話でしたが、それはもしかして、心の病気ですか?」
先程までにこやかだった陽子の表情が暗くなる。静かに、頭を振った。
「わかりません。ただ、ある日突然、目覚めなくなってしまって。もう一週間も」
涙が零れ落ちる。慰めるように、昌子が陽子の肩に手を置いた。
「呼んでも叩いても、起きないんだよ。医者も原因が分からないって言うし、一体どうしたものかねえ」
溜息と共に、昌子が憂う。
「ご主人がそうなる前に、何かありませんでしたか?誰か知り合いの方が亡くなったとか、思い悩んでいたことがあったとか」
「さあ、何も。でも、私が知らなかっただけかも」
陽子が首を捻る。彼女を見つめる昌子の瞳に悲しげな色が浮かんでいるのを、翔は見逃さなかった。
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