第四章

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 夜中、翔は寒さで目を覚ました。布団を引っ張り、その中で丸くなる。日の匂いがする布団に、心が安らぐ。辺りは真っ暗だ。    もうひと眠りしようと目を閉じ、またすぐ開く。 「おい、またかよ」  シンがいない。三百六十度見回しても、姿は見えない。翔は上着を羽織り、外へと飛び出した。目を凝らし、辺りを探す。視線を彷徨わせているうちに、視界の端に赤い光を捉えた。  山の中だ。翔は駈け出した。  闇に目が慣れないまま山道を進み、木の枝に引っかかれながらも、翔は仄かに輝く赤い光を頼りに前進した。  前回は真弥と話していた。今回は誰と話しているんだ。  そんなことを考え近付いていると、光っている場所と同じ方向から、音が聞こえてきた。  岩に石をぶつけているような、そんな音だった。  木と木の間から、翔は顔を覗かせた。大きな岩の前に、シンはいた。背を向けているため、顔は見えない。  だが、泣いているようだった。  また、音が響く。  それは、シンが覚悟の石を岩にぶつけている音だった。  悲痛な声を上げながら、何度も何度も、覚悟の石を岩へぶつけている。石を持っている手からは血が流れ、ぶつけている場所は段々と砕けていく。  しかし覚悟の石は変わらず赤く光るだけだった。傷一つない。 「どうして、沙貴。どうして」  叫び、ぶつけ、また叫ぶ。狂ってしまったのかと思うほど、シンは一心腐乱だった。
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