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「もう二度と、会うつもりはなかった。会って、記憶が甦ったりしないように。なのに」
石が光る。光が、シンの悲しみを照らす。
「わかってたんだ。会えば恋しくなる。僕の方が傍にいたくなる。
でも駄目だ。記憶がない方が、僕を忘れた方が母さんは幸せなんだ。だから僕はもう二度と会わない。母さんには会わない。
罠だったんだ、これは。僕の心を乱すための」
泣き崩れるシンの肩を抱く。嫌がり、暴れても、翔はシンを抱き続ける。
「翔さんが、勝手に村へ行くから」
「ごめん。悪かった」
喉が裂けそうな声が響く。疑問は依然増えるばかりだった。
だが、そんなことがどうだってよかった。翔は、無力な自分を責めた。
この少年を救うことができない自分の小ささを、責め抜くことしかできなかった。
「お母さん」
シンの声が、夜露と共に、地に吸い込まれていく。
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