1:女の子はかわいいの魔法を知っている

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昼下がりのカフェは平日だというのにテーブル席の八割が埋まっている。 通りに面した大きな窓越しの通りはすっかり秋色だ。 プラタナスの並木道が色づき、差し込む陽射しと相俟って世界は黄金色の輝きに満ちている。 ねぇ、くぅちゃん。と呼ぶ少し舌っ足らずな声にあたしは差し向かいに座り頬杖をつく京佳ちゃんに視線を戻した。 「くぅちゃんのネイル、すっごいかわいいんだけど?」 「えー!京佳ちゃんのネイルもかわいいじゃん?」 てらりとプラスチックの質感で光を反射する指先をかざす。 秋を意識して、オレンジと茶色をベースにしたタータンチェックのジェルネイルにして正解だった。 今年はトラディショナルなファッションが流行るって書いてあったし……と、二週間くらい前に読んだ記事を思い出す。あたしのそれより明るいトーンに染めた髪をかきあげた京佳ちゃんは、ンー、と呟いて唇をとがらせた。オレンジピンクのグロスがてらりと光る。京佳ちゃんのネイルは透明のベースに季節に合わせた紅葉が描かれている。 「なんかでも、秋って短いよね。最近、夏と冬ばっかり長くて、春と秋が短いよねー。せっかく、秋に着ようと思って買ったシャツワンピ、そろそろ寒くなってきちゃったから二回しか着てないんだよね。」 「あ、そのシャツワンピって、なんか彼シャツっぽいやつ?」 「そうそうそうそう!マーブルパープルで売ってたやつ?。超かわいくない?」 「かわいいかわいい!あれ、鎖骨が綺麗に見えるじゃん?」 きゃぁきゃあと他愛もない会話をしながら、クリームのたっぷりのったフォトジェニックなパンケーキをフォークで口に運ぶ。 ふるり、と分厚くてふわふわのパンケーキが揺れた。
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