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桜
「起立、きをつけ、礼。さようなら」
ガタガタと机と椅子を教室の後ろに運び、あらたはカバンを背負った。前の席のしげがあらたの腕を掴んだ。
「清水、今日予定は?」
「え?ないけど」
「ちょっと付き合ってくれ」あらたに有無を言わさずにぐいっと腕を引っ張って先に歩き出した。
「何だよ。どこに行くんだよ」
あらたが尋ねても、まあまあとしげは意味深な笑いをするだけだった。廊下を歩き、階段を下り地学準備室に入ってしげはあらたの腕を放した。
「まさかここって」
「さ、ジャージに着替えるぞ!」
「は?」あらたはあからさまに嫌そうな顔をした。
「いいから、ほら早く!」
「やだよ。俺帰る」
「待て、清水。これから楽しいことが待ってるんだって! 騙されたと思って、な?」
しげの熱意に押し負けてあらたは渋々ジャージに着替え始めた。着替え終わりしげの後に続いて隣の地学教室に入ると、あらたの思った通り、そこは地図研究部の部室で他の部員もジャージ姿で揃っていた。
「遅いぞー、二人とも」みずきがバッグを手にそわそわしていた。
「よーし、みんな揃ったね」一人の教員がが声をかけた。誰?という表情をしているあらたに広海が歩み寄った。
「あらた、顧問の須田先生だよ」
須田は30代前半ですらっとして背が高く、長い髪を後ろで一つにまとめ、作業着を着ていた。
「お。君が、清水新君だね?」
「はい……」
「先週は会えなくて残念だったよ。私は須田 純子(すだ あやこ)。2・3年生の生物を教えているんだ。だから1年生とはちょっとだけ関わりが少ないかな。でも、困ったことや分からないことは何でも、いつでも聞いていいからね」
さばさばとした話し方の言葉の端々や表情に温かさが感じられた。
「それじゃ、これ持ってもらえるかな?」須田が微笑んであらたに袋を手渡した。
「え、これって」問いかけようとしたが、既にみんな部室から出ていた。あらたは慌ててみんなの後を追った。
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