入部

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入部

 フキノトウが地面の土を押しのけ力強く芽を太陽に伸ばし、桜の花が蕾を膨らませ始めた。長い冬を終えて、北海道に春が訪れたことを告げている。桜丘高等学校には新入生が入学し、学内も生徒たちの声が響いていた。  4月の半ばを過ぎたある日の放課後、西棟3階、ある教室のドアがガラリと音を立てて開いた。 「失礼します」  部室に二人の男子生徒が入って来た。一人は背が高く、色黒でがっしりとした体格をしていて、優しい目をしている少年。もう一人は中くらいの背で、少し面倒くさそうにムスッとした表情でいる少年。 「ようこそ、地図研究部へ」  三人の生徒が椅子から立ち上がり二人を迎えた。  教室の中を見回すと、棚にはたくさんの地学に関する本に太陽系の模型、様々な石の標本が置いてあり、壁にはいくつか地図が貼られていた。 「あ、あの人」ムスッとした生徒が口を開いた。背の高い生徒が振り返り、何のことだろうと首を傾げた。 「よりによって何であの人が居るところなんだよ」  なぜなら、部活動紹介で誰よりも目立っていた人物が居たのだ。茶髪に茶眉、ネクタイも着けずにYシャツは開け出し、中に赤のTシャツを着ていた。  明らかに校則違反生徒であった。見た目だけは。 「あぁ!みずきのことかい?」  眼鏡をかけた背の高いもじゃもじゃ頭の男子生徒がにこにこしながら話しかけた。 「オレ?」 「みずきは一見、校則違反の見本みたいだろ?でもあれ、地毛なんだよ」 「じげ?」 「あぁ、天然物!染めたりなんかしてねぇよ。ついでに広海も天然物のパーマだ」  みずきと呼ばれた小柄な男子生徒はもじゃもじゃ頭の生徒を指し、笑いながら言った。もじゃもじゃ頭の広海も一緒にあははと笑っている。 「それで、君たちは?」広海が二人に尋ねた。  すると背の高い生徒が一歩前に進んだ。 「僕は1年の佐藤 繁昭(さとう しげあき)です。で、こいつが」 「同じく1年の清水 新(しみず あらた)です」 「僕と清水は同じクラスなんです」 「そうかそうか。しげにあらた。よく来たね」広海が嬉しそうに歓迎した。 「あの、部活見学かな?」広海とみずきの後ろで様子を見ていた女子生徒が顔を覗かせた。
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