助言

1/2
前へ
/90ページ
次へ

助言

 四つ葉探しから数日が経ったある日の放課後、あらたは部室に入った。窓から夕陽が差し込んで温かな空気が流れている。部室には部員の姿が無く、ドアの鍵が開いていたことを不思議に思っていた。  壁に貼られたハッピーマップの前に一人の男子生徒が佇んでいることに気が付いた。その男子生徒は愛おしそうにマップを手でなぞっていた。 「あの」  あらたが声をかけると、男子生徒はあらたの方を向いた。その姿は華奢で色白で儚げだった。制服は少し大きいようで袖が少し長く、広海、みずきと同じ色のネクタイを着けていた。とても親しみのある柔らかい笑顔であらたを見ていた。  あらたが何か言おうとすると男子生徒が口を開いた。 「みずきは幸せを見つけるのがとても上手で、広海は幸せを宝物にすることができる。二人からたくさんのことを学ぶといいよ」  そう言って男子生徒はドアに向かい部室から出て行こうとした。 「あの、あなたは?」あらたが尋ねた。  男子生徒の口が動いたが、その言葉は聞こえなかった。夕陽に照らされた顔が優しく綻んだ。そして静かに部室から出て行った。  あらたは何のことか分からず、ぼうっとドアを見つめていた。ガララと音を立ててドアが開き、広海とみずきが入って来た。 「あらたもう来ていたんだね。……あらた?」  あらたの反応が無いので広海があらたの肩をポンと叩いた。ハッとしたようにあらたは気が付き、二人の姿を確かめた。部室を照らしていた夕陽も消え、まだ太陽は高い位置にあった。 「あの、今、誰かとすれ違いませんでしたか?3年の男子なんですけど」 「誰ともすれ違ってないぞ。誰か来てたのか?」 「はい。二人のことを知っていたので、知り合いかと思って」 「誰だろうね?クラスの誰かかな?」 「かもな」と広海とみずきが顔を合わせていた。 「その人」  とあらたが言いかけた時、ゆらとしげが入って来た。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加