雨宿り

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雨宿り

 校舎裏のベンチにあらたは一人で座り、うつむいていた。部活の時間はとっくに始まっているのに、部室に向かう気にはなれなかった。  6月の空は晴れ渡り、心地よい風が通り抜けていく。そんな気持ちの良い天気とは裏腹に、あらたの心の中は今にも雨が降りそうに暗く沈んでいた。 「毎日、しっかりと学生生活を過ごし、心から笑って、泣いて、怒れるように 一日一日を大切に生きること」  部室の壁に貼られた活動目標に、ハッピーマップが頭に浮かんでいた。  俺には分からない。どうしてあれが活動目標なのか。心から笑って、泣いて、怒るなんてそんなこと俺には出来ない。一日一日を大切に生きるなんて、今まで考えたこともない。  幸せを見つけるなんて、幸せというものが何かよく分からないのに。それに部長もみずきさんも何でああやって楽しそうに笑っていられるんだ。二人から何を学べばいいんだ。あの人たちが居る場所は俺が居ていい場所じゃない。 「雨が降ってるね」  声がした方を見上げると、ゆらがあらたのすぐ側に立ち静かに微笑んでいた。 「え?」 「雨が降ってるね」 「雨なんて降ってませんよ。こんなに晴れてるのに」 「そうだね。空はこんなに晴れて気持ちの良い天気だけど、あらたの心には雨が降ってる」 「何を」あらたは心の中を見透かされた感覚にドキリとした。 「そういう風に私には見えた。今のあらたはとても苦しくて、辛そう」 「辛くなんてないです」  心の中を見られたくなくて、ゆらから視線を外し下を向いた。ゆらはあらたの隣に腰を下ろした。 「思い違いだったらごめんね。でも、聞いて。誰にだって雨が降る時があるの。雨にあたっていたら、風邪を引いちゃうね。そんな時は、少し雨宿りしたらいいよ。例えば、空を見上げたり、美味しいものを食べたり、誰かに頼ったり、ね」 「雨宿り、ですか。そんなの簡単に出来ませんよ」 「んー。それじゃあ、雨宿りのお話を聞いてみて。イメージしやすくなるんじゃないかな」  ゆらは「雨宿り」の話を始めた。
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