雨宿り

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 ある天気のいい夕方、女の子が一人で立っていました。  その女の子はとっても悲しくて、辛くて、苦しくて、仕方がありませんでした。  でも女の子は涙を見せないように必死で我慢していました。  心の中では土砂降りの雨が降っていて、途方に暮れていました。 「ずいぶんと雨が降っているね」  通りすがりの男の子が女の子に声をかけました。 「えっ?」 「少しだけ、雨宿りしてみない?」 「あまやどり」 「うん。傘もささずにいたら、風邪を引いちゃうからね。俺は雨を止ますことはできないけど、雨宿りをする方法は知っているんだ」 「でも、雨なんて」 「君を見た時、とても辛そうだと思った。きっと心の中は雨が降っているんじゃないかとね」 「うん……。どんどん雨が降ってきてどうしようもなくて、困ってたの」 「困っている時は、誰かに頼るといい。こうやって雨宿りを勧める通りすがりの人でもいい」 「私、分からなくなってしまって。自分の生きる意味とか、この先どうしたらいいのか、色んなものがごちゃ混ぜになって」 「うん」  男の子は優しく頷きました。 「周りのみんなはキラキラしてて、毎日楽しそうで、どんどん先に行って、置いて行かれて、焦って、辛くて、どんどんダメになって、私……」  言葉にしたらどんどん溢れてきました。心に降っている止まない雨は涙となって女の子の頬に降り注ぎました。  男の子は優しい眼差しで女の子を見つめました。女の子が泣き止むまで、そっと側に居てくれました。 「道端に咲く花、とても綺麗だ。今日の夕陽、すごく綺麗だ。こんなに綺麗なものを見られた今は、とても幸せだと思う。今日が、今が、幸せだと思える気持ち、それを忘れてはならない。明日や未来が不安になるのは分かる。だけど、今や今日を見失ってはいけない。今が積み重なって明日になるから。今が幸せならきっと明日も幸せになる。一つでもいい、幸せなことを見つけられたらと俺は思う」  女の子は、男の子と一緒に夕陽を見ました。その時初めて夕陽が綺麗だと思いました。  土砂降りだったはずの心がぽっと温かくなっていました。
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