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祭りと花火
太陽は力強く輝き、虫の声がうるさいほどに聞こえてくる。すっかり季節は夏となった7月の終わり。陽はまだ沈む気配を見せない夕方、大きな池がある公園では年に一度の神社祭が開かれていた。いくつもの屋台が並び、普段の公園では考えられないほどの多くの人が行き交い、熱気と活気で溢れていた。
公園の入り口には、夏休み中の広海、みずき、ゆらの姿があった。広海は深い青の細縞の浴衣、みずきは紺に可愛らしい赤い金魚柄の甚平、ゆらは白地に赤や青の朝顔が描かれた浴衣を着て、髪はハーフアップにしてキラキラ輝く髪飾りを着けていた。
そこにしげとあらたがやって来た。
「こっちだ! こっちー!」三人が手を振って招いた。
しげは薄茶の甚平を着て笑顔で手を振り返し、あらたは黒地に白い竹が描かれた浴衣を着て、ぷらぷらと歩いていた。
「あらた早く来いよー」みずきがぴょんぴょんと跳ねた。
「まったく、こんな暑いのに元気ですね」
「お祭りだから、みんなウキウキしてるんだよ」
「二人とも偉いぞ。ちゃんと言われた通り、甚平か浴衣着て来たね」広海が嬉しそうに頬を緩めた。
「あらたの浴衣渋いなー」みずきがまじまじとあらたの浴衣を見た。
「これ、父親のなんで。これしかなくて」
「似合ってるよ」ゆらは笑顔であらたを見上げた。同意するように広海も頷いた。
「ゆらさん、いつもと雰囲気違いますね」しげは珍しそうにゆらを見つめた。
「え? そうかな」
「いつも以上に可愛いぞ! な、広海!」
「そうだね。浴衣も似合ってるし、髪形も可愛いと思うよ」
「え、あ、ありがとうございます」
微笑む広海にゆらは頬を赤らめてうつむき、ぱっとあらたを見上げてはにかんだ。
「これが浴衣マジックだねっ」
「はぁ」
ゆらのはにかんだ表情にドキリとしてあらたは視線を外した。
「あらた。そこはさぁ、はぁ。じゃないだろ? まったくこいつは。すみません、ゆらさん」しげがあらたの態度に呆れ、ゆらに頭を下げた。
「いいのいいの! 気なんて使わなくていいから。自然体でいてくれる方が、あらたらしくていいと思う」
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