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天体観測
午後7時30分。しんと静まり返った校舎に六人の足音が響く。陽は沈み、月明かりも無く、非常灯だけの薄明るい廊下をライトが照らしていく。夏休みがもう少しで終わりを迎える8月の初め、地図研究部の夏休み最後の部活として天体観測をするために学校に集まった。
「おおー! 暗い! 夜の学校はドキドキだ!」
「みずきさん声が大きいです」
「何だあらた、ビビってるのか?」
「ビビってませんよ。ビビってるのは」
あらたが後ろを振り返った。そこには、ただ一点だけを見つめて歩くしげと血の気の失せた顔でぷるぷる震えているゆらが居た。
「お前ら大丈夫か!?」
「みずき、自分の顔にライト当てるのやめろ。余計に怖い」
「え? オレの顔見たら安心するかと思って。そっか、広海の方がいいな」
そう言ってみずきは広海の顔に下からライトを当てた。
「みずきさん、やめてくださいよ。眼鏡が光って二人とも怖がってるじゃないですか」
「そうなのか? ごめんな!」
「いえ、だいじょぶ、っす」しげが不自然に笑って見せた。ゆらはその場で硬直していた。
「何が怖いのか分かんないけど、もう少しだから頑張れ。ゆらさんも」
「うん」
先頭を歩いていた須田がぴたりと止まり、足元の一点を指した。
「あ、そこ」
「うわぁ! 何!?」広海とあらたを盾にするように部員が集まって須田を見た。あらたは呆れたようにため息をついた。
「段差があるから、気を付けてね」
「何だよもー! すだっち、驚かせんなよー」隠れていたみずきが弾けるように前に出てきた。
「みずきさん、何で俺と部長を盾にしたんですか」
「だって、面白いだろ?」
「はぁ?」
「ちなみに、昔からこの階段は1段増えるという噂があるんだ」
屋上に続く階段を上りながら須田は部員を振り返った。その口はにんまりと曲がっていた。
「増えるの? 聞いたことないよ」ゆらがしげの服にしがみ付いた。
「増えるのかぁ、それは運動になっていいんじゃないか?」広海がのん気にはははと笑った。
「どうせ増えるなら、100段くらいじゃないとな! しげ!」
「はは、100段はきついっすね」
「脚ムッキムキになりそうだね」
冗談を交し合いながら屋上に向かって歩みを進めた。
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