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「待って」
ゆらが前を歩くあらたに声をかけると、あらたが振り返った。
「何ですか」ムッとした顔でゆらを見下ろした。
「帰るんだよね?」
「そうですけど」
「あのね、昇降口そっちじゃないよ」
「え?」
「まだ入学したばかりだもんね。私が案内するよ」
こっちと手を招くゆらのもとへあらたは口を曲げて照れくさそうに向かった。
「何なんだって思ったでしょ?」
「は?」
「地図に込められた想いとか、宝物とか。馬鹿みたいって思ったんじゃないかな?」
「まぁ、はい」
「でもね、本当なの。想いが込められた地図は温かいの」
「そんなこと」
「あの二人が作る地図は温かい。人の心、想いって温かいの。私も信じられなかったんだけどね。二人は私が作った地図を宝物だって言って大切にしてくれる。ゆらの想いが詰まった素敵な地図だって」あらたを見上げてゆらは大切そうに笑った。
「それに、今日はまだ居なかったんだけど、顧問の先生も良い先生なんだよ! 地図のことを教えてくれるだけじゃなくて、一緒に色んなことを楽しんでくれるの」
「はあ」
「だからね。大丈夫だよ」ゆらは優しく笑いかけた。
あらたは黙ってゆらの笑顔を見ていた。胡散臭いとは思っても、この人の笑顔は嘘じゃない。それだけは理解できた。
あらたがあれこれ考えている内に昇降口に着いていた。ゆらに見守られながら靴を履き替え、それじゃ、またね!と笑顔で手を振るゆらに小さく頭を下げてあらたは学校を後にした。
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