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「ゆらさん」
「ん?」
「ゆらさんっていつも笑ってますよね。何言われても黙って笑って。さっきだって、思ってること言えばよかったのに。どうして笑ってるんですか?」
「えっと。あの、それはね」
ゆらは言葉に詰まった。私が笑う理由。それは簡単に言えることでは無かった。ゆらはぼうっと宙を見つめていた。何と言えばいいんだろう、と答えを探していた。こんなことを訊かれたことが無かったから。
「ゆらさん!」
自分を呼ぶあらたの声でハッとした。顔を上げると、あらたは不思議そうに首を傾げてゆらの顔を覗き込んでいた。
「ご、ごめんね! ぼうっとしちゃって。あ、教室に忘れ物しちゃったから、先に部室行ってて!」そう言って足早に去って行った。
「言わなきゃ分からないことだってあるんだよ」あらたは呟いて部室に向かった。
一方的に話を終わらせて立ち去ってしまったことに罪悪感を覚えながら、ゆらは廊下を早足で歩いていた。
どうしよう、あらた変に思ってるよね。でも、何て答えたら良かったんだろう。ずっと使ってきた笑顔は、本当の気持ちを隠すために役に立った。何でもにこにこ笑っていれば、自分の暗い部分に目を背けることが出来るし、他の人も訊かないでくれる。
だけど、あらたや部員のみんな、須田先生にはその嘘は通用しないだろう。きっと真剣に聴いてくれる。私の心ごと受け止めようとしてくれる。だから困るなぁ、吐き出し方なんて知らないよ。とにかくあらたに謝らなきゃ。
ふうと一つ息を吐いて踵を返し、部室に向かった。
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