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学校祭準備
冷たい風が吹き始め、うるさかった虫の声が寂しく聞こえてくる。季節は夏から秋に変わった10月の初め。桜丘高等学校は、学校祭の準備で慌ただしくなっていた。生徒たちはそれぞれの催しの準備で走り回り、普段の学校生活から解放され浮かれた気持ちでいた。地図研究部も学校祭で発表する地図の完成に向けて忙しくしていた。
ある日の放課後、部室にみずきの姿が無かった。
「みずきさん、遅いですね」
「クラスの準備を手伝っているかもしれないな。ああ見えてみずきは、みんなから頼られるから」
「でも、昨日はすぐ来るって言ってましたよ」
「そうだねぇ」
「私、探しに行ってきます」
いつまでたっても現れないみずきを心配して、ゆらは部室を出た。みずきの3年A組を覗いてみたが、みずきの姿は無かった。
「高橋先輩どこに居るか分かりますか?」
「いや、もう部活の準備に行ったんじゃないかな」
クラスの生徒に尋ねてもみな首を横に振るばかりだった。もしかしたらすれ違いになったのかもしれないと部室に向かって歩いている時、自習室に誰か居るのに気が付いた。そっとドアに近づき窓から中を覗くと、窓側の席に座り外を眺めているみずきが見えた。みずきの他には誰の姿も無かった。
外を眺めるその目は遠くを見つめ、物思いにふけっているようだった。いつもの幼さはどこかに行き、大人っぽくそしてどこか話しかけ辛い雰囲気があった。
見たことのないみずきの表情にゆらはドキリとした。その時、何人かの生徒が賑やかに話しながら廊下を通った。その声でみずきがドアに目を向けると、初めてゆらに気が付いた。
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