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学校祭
学校祭が始まった。学内は生徒と来客で人が多く行き交い、催しや呼び込みなどで賑やかな声が響いていた。教師も生徒もクラスTシャツを着て、楽しそうに笑ってはしゃいでいた。
地図研究部は、1階の昇降口近くにある多目的室で地図のパネル展示をしていた。
広海は市内の景色がいいお勧めスポットと橋めぐりの地図
みずきは人との交流ができる場所の地図
ゆらは近郊の市町村の桜や花が綺麗に咲いている場所の地図
しげは人の笑顔がある場所の地図
あらたは星がよく見える場所の地図
部員はそれぞれ決められた時間にパネルの前に立ち、地図の説明や質問の回答を行っていた。しげとあらたは担当の時間になり、各自の地図の前にやって来た。多目的室には数人のお客さんが来ていて、部員の地図を見ていた。みずきがゆらの作った地図の前で若い男性と話をしていた。ゆらの代わりに説明をしているようだった。その男性も熱心に話を聴いていて地図を真剣に見ていた。
「みんなすごいな。やっぱり、誰かの真似じゃ駄目なんだよな」
自分の地図を見たしげがぽつりと呟いた。
「何言ってんだお前。これはお前が考えて作った地図だろ?」
「そうだよ。でも、俺が作ったように思えなくて。俺じゃない気がして」
「しげ、お前はお前だ。他の誰でもない。この地図はお前のもので、お前しか作れない。自信持て」あらたは表情を変えずに淡々と答えた。
「まさか、あらたにこんなこと言われるなんてな」
「あ? どういう意味だよ?」
「いや、ありがとう」
口を尖らすあらたのもとに一人の男性がやって来て声をかけた。科学館の天文台で働いている人で、あらたの地図に興味を持ったらしい。あらたは無愛想ながらもきちんと説明を始めた。その姿を見守るしげは、あの無愛想がなけりゃなと小さく笑った。
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