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「みんな、部活の時間を始めるよ」須田が手を上げて部員の注意を集めた。 「しげ、あらた。ここの地名がなぜ桜丘なのか知っているかい?」  二人は首を横に振った。 「この桜丘という地域には、100年前までその名の通り、桜の木がたくさんあったんだ。ある日この地域を大きな火事が襲った。火の手は町だけでなく、この山にも及んだ。ほとんどの桜の木は燃えてしまい、唯一残ったのがこの桜の木だ。そしてこの桜の花は他の桜よりも早く咲く」  須田は桜の木を見上げた。部員も同じように見上げた。たくさん分かれた枝も、太い幹も、力強い根も火事の中残り今まで生きてきたその姿を表していた。 「実際に100年前と現在の地図を比べて見てみよう。あらた、渡した袋から地図を出してもらえるかな?」 「あ、はい」あらたは袋を開けて中から二枚の地図を出した。 「ありがとう。それじゃあ、見てみようか」須田はレジャーシートの上に地図を広げた。 「これが100年前の桜丘だ。分かることはあるかな?」 「家が少ないです」しげが答えた。 「そうだね。多くは畑や田んぼ、未開拓の土地だったんだ。今の学校があるところはどこか分かるかい? あらた」 「ここです」あらたは広げられた二枚の地図を見比べ指さした。 「うん、そうだね。100年前では未開拓の土地だ。きっと春にはたくさんの桜が花を咲かせていたんだろうね。そして100年前までなかったところに学校があって、私たちは通っている」 「変わってないとこもあるんだよな? すだっち」みずきが須田を見上げた。 「そう。川の位置はほとんど変わっていない。川幅や曲がり方は水の力で削られて変わっているけれど、流れそのものは変わっていないんだ。よーく見比べてごらん」  部員は二枚の地図を見比べて、同じところや変化したところ、疑問に思うことをそれぞれ話し始めた。須田はそれに補足の説明を入れるだけで、後は部員を温かく見守っていた。
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