入賞;僕の好きな一瞬

3/4
前へ
/4ページ
次へ
想像していたのは、あちこち走り回って、忙しなくシャッターチャンスを探し回っている姿。 写真部が走り回っている姿は、正直見たことはなかったが、勝手に作ったイメージでは興奮しながら走り回っている。 ともすれば変態だが、カメラを片手に持てば皆、芸術家に見えるものだとばかり思っていた。 きっと、そんな下品なイメージが、言わずとも彼女に伝わったのだろう。 俺が彼女を見付けてから、一時間ちょっと経つ中で、最も饒舌に滑らかに喋り出した。 もちろんその間、俺とは一瞬も目を合わさない。 「あのね。写真も芸術なの」 「まぁ、そうだね。コンテストとかあるくらいだし。それは、分かるよ」 「分かってない。芸術って、緻密に年密に時間をかけて造り上げるものなの。自分の内に奥に潜む感情とか、言いたいこととか。もみくちゃにされたものを一個ずつほどいて、理解して、また積み上げて。それでやっと撮りたい画が浮かぶの。インスピレーションっていうのは、そういうものなの。君が言ってるのは、ただの勘」 彼女は、時間をかけて自分の内側にあるものを、引っ張りだしたのだろう。 悪いことを言ってしまった。 彼女は、まだ続ける。 それは、彼女自身に言い聞かせているようにも聞こえた。 「そして、カメラは、時間の一瞬を切り取るものなの」 「それって矛盾してない?」 「だから、こうやって待ってるの。一瞬を」 「……ふーん」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加