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想像していたのは、あちこち走り回って、忙しなくシャッターチャンスを探し回っている姿。
写真部が走り回っている姿は、正直見たことはなかったが、勝手に作ったイメージでは興奮しながら走り回っている。
ともすれば変態だが、カメラを片手に持てば皆、芸術家に見えるものだとばかり思っていた。
きっと、そんな下品なイメージが、言わずとも彼女に伝わったのだろう。
俺が彼女を見付けてから、一時間ちょっと経つ中で、最も饒舌に滑らかに喋り出した。
もちろんその間、俺とは一瞬も目を合わさない。
「あのね。写真も芸術なの」
「まぁ、そうだね。コンテストとかあるくらいだし。それは、分かるよ」
「分かってない。芸術って、緻密に年密に時間をかけて造り上げるものなの。自分の内に奥に潜む感情とか、言いたいこととか。もみくちゃにされたものを一個ずつほどいて、理解して、また積み上げて。それでやっと撮りたい画が浮かぶの。インスピレーションっていうのは、そういうものなの。君が言ってるのは、ただの勘」
彼女は、時間をかけて自分の内側にあるものを、引っ張りだしたのだろう。
悪いことを言ってしまった。
彼女は、まだ続ける。
それは、彼女自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「そして、カメラは、時間の一瞬を切り取るものなの」
「それって矛盾してない?」
「だから、こうやって待ってるの。一瞬を」
「……ふーん」
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