(〇三)

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 二人の言う“ダメ”とは、通報に使われた公衆電話周辺に、監視カメラが設置されているかどうかの有無である。  もし、監視カメラが設置されていれば、通報者の容姿だけでもわかるだろうと思ったのだ。 『それに人通りも少なく、通報者を見たという人間を探すのも難しいでしょうね』 「そうか…」 『しかし、引き続き青葉と速水、それに所轄の方たちとあたってみます』 「頼むわ」  楠はそう言って通話を終えると滝矢を見て、 「奈良崎の勤めてるホストクラブは訊き出せたんか?」  と、訊いた。 「訊いたんですが、店の名前までは知らないそうです。オーナーか仲介した不動産屋なら知ってるはずやと言ってました」  滝矢の話を聞いた楠は葛城を見て、 「佐和と宇野はマンション住民への聞き込みをしてるんやな?」  と、確認した。 「ええ」 「ほな、、ホストクラブの方はお前たちに任すわ」  楠の言葉に葛城と滝矢の二人は、さっそく部屋を出て行くのだった。 「じゃあ、私と冴ちゃんは佐和やんを手伝うわ」  と、村瀬は楠に声をかけると、冴子を連れて、これまた部屋を出て行くのだった。  楠が見落としがないか、部屋を見渡していると背後から、 「おい、楠」  と、鑑識の制服をだらしなく着た、ボサボサの髪に無精髭の高林健吾(四三歳)が声をかけた。  楠が振り向いて、 「なんや?」  と、返事をする。  二人は警察学校からの同期である。 「指紋が拭き取られた痕跡が幾つかあるんやけど、妙なんや?」 「どういうこっちゃ?」 「そのホトケさんの指紋を採取させてもろて比較したんやけど、この部屋から一個もでえへんのや」 「ホトケさんのがか?」  高林は頷き、 「つまり、ホトケさんは生きてこの部屋に入ったとは限らへんちゅうこっちゃ…もし、何者かに運び込まれたとしたら、このマンションのエレベーターの監視カメラに、なんか映ってるんとちゃうか?」  と、説明するのだった。
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