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(〇四)
翌朝、ゼロ係では独自に捜査会議が開かれ、捜査方針として被害者の身元確認と、奈良崎の所在をつきとめること、そして、マンションの監視カメラに不審者が映ってないかどうかの確認、更には奈良崎名義の通話記録の確認…以上を優先とされた。
しかし、奈良崎の勤め先のホストクラブを特定するためには、職種的に夜の仕事なので、聞き込みは夕方近くまで待たなければならなかった。
昼過ぎ頃、加賀屋と速水と組んで奈良崎のマンション周辺の聞き込みをしていた青葉は、トイレで用を足すため、一人で近くの公園のトイレに来ていた。
「よお、一人か?」
トイレから出た青葉は、綾部に声をかけられた。
綾部は両手に缶コーヒーを一本づつ持っている。
「なんや、お前…なんで、こんなとこおんねん?」
青葉はハンカチで手を拭きながら訊いた。
「いや、そこを通りかかったら、お前が見えたからな」
「ふ~ん」
綾部はさりげなく辺りを見渡し、
「他の連中は? 一人やないんやろ?」
と、訊きながら、一本の缶コーヒーを青葉に軽く放って渡した。
青葉は礼を言ってから、
「加賀屋さんと速水なら、まだ周辺を聞き込んどるわ」
と、付け加えた。
「捜査の方はどないや?」
綾部がプルトップを開けると、青葉もそれに倣って開ける。
綾部は一口飲むと、
「小耳に挟んだんやけど、死体が発見された部屋の住人が見つからへんて、ほんまか?」
と、訊いた。
「ああ、さっぱりや」
青葉はそう言って、やけくそ気味にコーヒーを飲む。
「せやけど、なんちゅう奴かはわかっとるんやろ?」
「まあな」
「ほな、釈迦に説法かも知れんけど、そいつの携帯とかの通話履歴やGPSからの追跡捜査はしとるんやな?」
普段、奈良崎と電話で連絡を取っている綾部は、自分のことが履歴からバレてないか、確認するために、そう訊いた。
ただ、綾部は奈良崎との関係が公にできるものではないため、奈良崎との連絡用携帯は、奈良崎に頼んで、彼の知人名義にしている上、その知人は綾部のことは知らないはずなので、簡単にバレるはずはないと思っている。
「そこなんやけど…」
と、青葉は困惑した表情で綾部を見た。
綾部はそんな青葉に、
(バレていたのか?)
と、一抹の不安を感じとり、
「どないかしたんか?」
動揺を隠して訊いた。
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