(〇四)

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「その住人…奈良崎 緑…っちゅうねんけど、そいつ名義の契約が、どの電話会社にもないんや…参ったわ」 「なんやて!」  綾部は本心から驚いた。  奈良崎は自分名義の電話を持っていない…  この事実は何を意味をするのか? 「ほんまなんか、それ…」  綾部は驚きを隠すように、さりげなく訊いた。 「ああ、せやから参っとるんや」  青葉は綾部の些細な挙動に、微塵も疑いを持っていなかった。 「その奈良崎って奴の職場はどうなんや?」 「それがやな、奈良崎はミナミでホストをしとるらしいんやけど、店まではわからんのや。まあ、店を探すのも含めて、そっちの聞き込みは夕方までおあずけや」  その時、青葉のスマホが鳴った。  相手は加賀屋だった。 「はい」  青葉は綾部に背を向けて、しばらく話していたが、やがて通話を終えると、再び綾部の方を向いた。 「合流せなあかんから、行くわ。コーヒー、ありがとな」 「おう」  青葉は歩きながらコーヒーを飲み干すと、近くの自動販売機の横にある缶とペットボトル用のゴミ箱に、空き缶を捨てて、去って行くのだった。  一人、取り残された綾部は、今の疑問について考えた。  奈良崎名義の携帯が無い…  すると奈良崎は綾部と同じく、知人名義の電話…スマホ…を使っていたことになるのか?  綾部は警察への通報後、奈良崎のスマホに連絡をいれたのだが、電源が切られていたので、連絡がつかなかった。  だからGPS機能も役に立たない。  綾部は思い出したように財布を取り出すと、その中から一枚の名刺を抜き出した。  そこには、 『CLUB ETERNAL  MIDORI』  と、前に奈良崎から渡された、彼と彼が働いているホストクラブの名前が書かれていた。  そこには勿論、住所も記載されている。  綾部はそこへ行って見ることにした。  『CLUB ETERNAL』は、中央区東心斎橋の周防町と呼ばれるところにあった。  この辺りは、夜は飲み屋街として華やかだが、今は閑散としており、業者のトラックや、抜け道をする車が通るぐらいである。  『CLUB ETERNAL』はわりと大きめの商業ビルに入っていた。  綾部は辺りを見渡し、慎重に商業ビルに入った。
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