43人が本棚に入れています
本棚に追加
「その住人…奈良崎 緑…っちゅうねんけど、そいつ名義の契約が、どの電話会社にもないんや…参ったわ」
「なんやて!」
綾部は本心から驚いた。
奈良崎は自分名義の電話を持っていない…
この事実は何を意味をするのか?
「ほんまなんか、それ…」
綾部は驚きを隠すように、さりげなく訊いた。
「ああ、せやから参っとるんや」
青葉は綾部の些細な挙動に、微塵も疑いを持っていなかった。
「その奈良崎って奴の職場はどうなんや?」
「それがやな、奈良崎はミナミでホストをしとるらしいんやけど、店まではわからんのや。まあ、店を探すのも含めて、そっちの聞き込みは夕方までおあずけや」
その時、青葉のスマホが鳴った。
相手は加賀屋だった。
「はい」
青葉は綾部に背を向けて、しばらく話していたが、やがて通話を終えると、再び綾部の方を向いた。
「合流せなあかんから、行くわ。コーヒー、ありがとな」
「おう」
青葉は歩きながらコーヒーを飲み干すと、近くの自動販売機の横にある缶とペットボトル用のゴミ箱に、空き缶を捨てて、去って行くのだった。
一人、取り残された綾部は、今の疑問について考えた。
奈良崎名義の携帯が無い…
すると奈良崎は綾部と同じく、知人名義の電話…スマホ…を使っていたことになるのか?
綾部は警察への通報後、奈良崎のスマホに連絡をいれたのだが、電源が切られていたので、連絡がつかなかった。
だからGPS機能も役に立たない。
綾部は思い出したように財布を取り出すと、その中から一枚の名刺を抜き出した。
そこには、
『CLUB ETERNAL
MIDORI』
と、前に奈良崎から渡された、彼と彼が働いているホストクラブの名前が書かれていた。
そこには勿論、住所も記載されている。
綾部はそこへ行って見ることにした。
『CLUB ETERNAL』は、中央区東心斎橋の周防町と呼ばれるところにあった。
この辺りは、夜は飲み屋街として華やかだが、今は閑散としており、業者のトラックや、抜け道をする車が通るぐらいである。
『CLUB ETERNAL』はわりと大きめの商業ビルに入っていた。
綾部は辺りを見渡し、慎重に商業ビルに入った。
最初のコメントを投稿しよう!