(〇四)

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 約一時間後…  綾部は教えられたパチンコ屋でリョーマを見つけることができず、また、スマホにも出なかったので、彼の自宅であるワンルームマンションに来ていた。  リョーマの住まいは中央区島之内だったので、そんなに遠くではなかった。  綾部は教えられたリョーマの部屋番号の前に立っていた。  プラスチックの表札には『加藤龍真』とあり、その漢字の上に小さくローマ字で『KATO TATSUMA』と、ルビがふられていた。  どうやらリョーマというのは、名前の読み方を変えた源氏名のようである。  綾部はインターフォンを鳴らす前に、もう一度、リョーマのスマホを鳴らし、耳をすました。  すると、中から呼び出し音らしきメロディが聴こえたので、綾部は呼び出しを中止し、インターフォンを鳴らした。  何度か鳴らしても反応が無いので、綾部は最初は軽く、続いて力強くドアを叩き、 「加藤さん! 出てくれませんかね!」  と、怒鳴った。  綾部は少し待って、反応が無いのを確かめたあと、ドアノブに手をやった時、 「誰…?」  と、若くて艶のある、それでいて眠そうな声がした。  綾部は覗き穴に『CLUB ETERNAL』でやったやり方と同じ方法で、警察バッジを見せながら、 「奈良崎 緑について訊きたいことがあるんや」  と、言った。  少し間があり、やがて、ドアが開く。  リョーマこと加藤龍真(二三歳)は、身長は綾部と同じぐらいで、短髪を薄い金色に染めており、切れ長の眼と少しばかり薄い唇が特徴的である。  今のリョーマは、黒地に白ヌキで描かれた髑髏の半袖Tシャツと、黒のジャージ姿だった。 「警察がなんで緑のことを俺に訊くんスか…あいつのことなら、俺より店に…」  と、リョーマが機先を制して、一方的に話している最中、何かに気付いたのか、突然、黙り込んだ。  そのリョーマの様子を、綾部が不思議そうに見ていると、 「あんた…」  そう呟いたリョーマが、突然、綾部の右腕を掴み、部屋へ引っ張り込んで、ドアを閉めた。  リョーマは綾部を上から下まで、ゆっくりと見て、 「あんたが、緑のオトコなんや…」  と、不敵に口元だけ微笑んで言った。 「な、なんのことや…」  と、綾部は知られたくない部分を指摘されたショックで、それだけ言うと絶句した。 「とぼけんでもええですよ…あんた、綾部さんやろ? あんたのことは、緑から聞いてますさかい」
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