(〇二)

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(〇二)

 十一月五日、月曜日…  昼休み…  府警本部の食堂で綾部は一人、昼食を終えていた。  元々、口数の少ない綾部には、連れ立って食事をする人間はいない。  誰もが近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだ。  しかし、そんな綾部に対して一人だけ、気軽に接する人物がいた。  お茶を飲み、立ち上がろうとした綾部は、入口から聞き覚えのある賑やかな声に、ゆっくりと視線を向けた。  見えたのは、捜査一課ゼロ係の凸凹コンビ、青葉和臣(三〇歳)と速水時貞(二五歳)だった。  綾部はトレーを手に歩き出すが、 「なんやなんや、相変わらず暗ぇ顔してよお!」  と、青葉に声をかけられた。  綾部に対して唯一、気軽に接する人物…それは、青葉だった。  青葉と綾部は同期で、それこそ、十年来の付き合いである。 「綾部、今月の同期会、欠席するんか?」 「同期会?」 「ああ…夏頃に出欠確認のハガキが届いてるはずやで」 「すまん、見てないわ」 「やっぱりなあ…幹事の杉野が困っとっての、俺の方から確認してくれて泣きつかれたんや」 「なんで直接、杉野が言って来んのや?」 「お前がおっかないからやないか」 「俺はバケモンちゃうで」 「その無愛想ぶりは、バケモンと大して変わらんやないけ」  青葉はそう言って笑うのだった。  この二人のやり取りを、周囲にいた人たちは珍しそうに見ていた。  何故なら、綾部がこんなに喋るのを見る機会がないからである。  その時、綾部のスマホが振動し、彼はトレーをテーブルに置いて、発信人を見た。  奈良崎だ。  綾部は青葉と速水に背を向けて、応対する。 「なんや、こんな昼間に」  小さくも鋭い声である。 『今夜、仕事が終わったら部屋に来て』  奈良崎が哀願するように言った。 「なんやて?」 『お願いやから』 「あほ、木曜に会ったとこやないか」  綾部は青葉たちから離れながら、なおも小さな声で言った。 『そんなんやないねん!』 「ほな、なんや?」 『とにかく、何時になってもええから来てや』  奈良崎の声はどこか緊張し、切迫しているように思えた。  綾部は自分自身気付かないうちに、食堂の端で目立たないよう壁を向いてた。 「わかった…なるべく早よ行くわ」 『あの…』 「…? なんや、まだなんかあるんか?」 『僕がいなくても、鍵の場所はわかるよね?』 「わかるけど…そら、どういうことや?」 『じゃ、今夜』  通話は一方的に切られた。
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