(〇二)

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 綾部は指紋に気を付けながら、慎重にショルダーバッグを調べるが、スマホやガラケーなどの通信機器も無ければ、免許証や各種カード類などを入れているであろう財布や手帳も含め、身許を証明するものは、何も無かった。  警察に通報しなければならない…  しかし綾部自身、名乗るわけにはいかない。  奈良崎との関係を暴露することになるからだ。  綾部は匿名で通報することを決意するが、その前にするべきことがある。  それは、過去にこの部屋に来たことがある痕跡を消すことだ。  とは言っても、私物を置いているわけでもないので、ユニットバスやベッド周辺で、綾部自身が触ったと思われる指紋を拭き消すだけだった。  一通りの作業を終えた綾部は、ベッドの女性を今一度見た。  綾部と奈良崎が交わったベッドで奈良崎は、あの女と関係したのだろうか…  綾部は一瞬、そんな感傷に襲われたがすぐ現実に戻ると、鍵をわざとテーブルに置いたままにして、出て行くのだった。
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