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(〇三)
約一時間後…
奈良崎の住むマンション周辺は、警察車輌と野次馬で騒然となっていた。
奈良崎の部屋には刑事たちや鑑識が調査をしている。
現場の陣頭指揮をとっているのは府警捜査一課ゼロ係の楠 直樹(四三歳)で、その他に村瀬正太郎(五三歳)と氷室冴子(二六歳)
がいた。
「身許を確認できるものがあらへん上に、クローゼットは殆どすっからかんでハンガーだけやなんて…なんやろなあ、このホトケさんは…」
村瀬は頭を掻きながらボヤいた。
「表札には奈良崎 緑とありましたから、このホトケのことやろうとは思いますがねえ…」
そう楠が応える。
階級では警部補の村瀬より、警部の楠の方が上なのだが、楠は村瀬が刑事としては先輩なので、敬語を使っている。
「でも、この部屋が遺体の女性のものやとしたら、変ですよ」
と、冴子が部屋を見渡して言った。
「なんでや?」
と、楠が訊く。
「だって、女性の部屋にしては殺風景すぎます。たとえ、引っ越して来たばかりやとしても、今時、こんなにモノが無さすぎるのは不自然です。特に女性ならなおさらですわ」
冴子が言うのは、女性なら最低限必要な化粧品類が何一つ見あたらないということだった。
「確かに変やな…」
楠は冴子の意見に頷きながら、部屋を見渡した。
そこへ、葛城雄也(三八歳)と滝矢雅人(二八歳)の二人が現れ、
「楠警部」
と、葛城が声をかけた。
「ここの管理人に訊いたところ、この部屋の借り主は男ですね」
葛城の報告に、楠、村瀬、冴子の三人がそれぞれ、少し驚いた表情になる。
滝矢が手帳を開き、
「奈良崎 緑、二二歳、男性。ミナミでホストをしているそうです」
と、報告した。
「ホストねえ…」
そう村瀬が呟く。
楠が部屋を見渡し、
「まあ、普通やと男なら、こんな部屋もアリと思うんやけど、ホストとなると…」
と、疑問を呈した。
「そうですね、身だしなみに気を遣うホストにしては、モノが無さすぎますね」
と、冴子は楠が言おうとしたことを代弁した。
その時、楠のスマホが振動した。
相手は加賀屋蓮司(三五歳)だった。
「はい」
『今、通報に使われたと思われる公衆電話にいるんですが、ダメですね』
「場所はどこや?」
『靭公園の南西です』
「まるっきりダメなんか?」
楠は念押しをしたが、
『はい…』
加賀屋の返事は変わらなかった。
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