最後の1日

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「弥生くん。今君が見てる景色は今の私の色と等しいと思うよ。弥生くんの目に映る色は、私の色はどんな桜色をしてる?」 彼女がわざと明るい声で尋ねる。 彼女はおそらく知っている。弱った人間の色がどれだけ、儚くか弱い色をしているか。快活でパワフルだった頃とは比べ物にならないくらいに醜い色になってしまっている可能性もあると言う事を。 あいにく、現在僕の目に映る桜は殆ど散ってしまっていて、ほんの僅かに残った桜がまばらに見えるだけだった。彼女の写真に写っていた満開の桜とは程遠いだろう。彼女はきっと、それも知っていて尋ねた。そこまで考えても、彼女がなんと言って欲しいのか、僕には分からない。それに、彼女がどうして僕の秘密を知っているのかも分からないし、彼女の心臓病がどういうものかも、具体的には分からない。 彼女もまた、僕の事がわからないはずだ。僕の趣味も家族構成も、得意な事も、きっとわからない。彼女に心から向き合って、信じてあげる事が出来なかったから。僕達は偽りだらけだ。だったら、最後まで嘘をつき続けたって構わないだろう。 「僕が見てる桜はね、これでもかってくらいに咲き乱れてるよ。君の色もきっとそんな風に、満開の桜みたいに輝いてると思う。」 今まで吐いてきた嘘の中で、一番大きな嘘だと思った。だけど唯一、罪悪感を伴わない。僕の心は晴れやかな気持ちをしていた。
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