出会いの1日

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気を悪くしてしまったんじゃないか、と心配になって、チラッと顔を上げると、彼女は一瞬ポカンとした後、パーっと満開の花が咲いたような笑みを浮かべて、「やったー!よろしくね。弥生くん!」と、ピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。 ホッと胸をなで下ろす。怒らせなくてよかった。 「あ!ズルイ。オレも洸って呼んでよ!」 洸がフグみたく、ほっぺたをプックリと膨らませている。 「いいよ!洸くんもよろしくねー。」 2人は、子供のようにワイワイはしゃいでいる。 その様子が微笑ましく、少し羨ましかった。 「おーい。早く食べないと、昼休み終わっちゃうよ。」と、花畑の背景でも浮かんできそうな様子の2人に声をかける。授業に遅れたりなんかしたら目立ってしまう。それは避けなければいけない。 「あ、ほんとだ。私、もう行くね。ここ人少なくていいね。また来たら、お話ししてくれる?」 サラサラの髪を風に揺らす彼女が言う。 「もちろん!毎日でもいいよー。」 洸がヘラっと笑う。僕も洸に賛成だ。彼女と昼休みを過ごせるなんて、夢のようだった。 「よかった。またね、弥生くん。洸くん。」 フワッと揺れるチェックのプリーツスカートと、紺色のブレザーの背中を見送っていた僕は頭の中が、蜂蜜のかかったホットケーキのように、とろりと甘くて、フワフワしていた。 だから、どうして彼女は僕の名前を知っていたのか、なんて思わなかった。クラスメイト全員覚えていると言っても、苗字だけだろう。転校初日で、下の名前まで正確に覚えられるわけがない。それに、洸の名前は、覚えていなかったようだった。 僕がそれに気づくのは、あと30日ほど先だ。
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