最後の1日

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小諸駅から徒歩3分、小諸城址懐古園、桜の名所であり動物園も併設された人気の観光スポット。そんな素敵な場所に男1人。道中で友達ができたら、なんて思ったけどそんな運命的な出会いなんて存在しなかったようだ。周りからの視線が痛い…なんてことはなかった。みんな僕のことなんか気にせず、美しい景色を眺めながら穏やかな表情で通り過ぎていく。 こんな曇天にもよく映えるどっしりとした門、これは重門と言うらしい。ネットで見た写真と同じ場所のようだ。小諸城址懐古園と言ったらここらしい。確かに、重門というだけあって、圧迫感と重厚感がかなりある。何年も前から沢山の人々を迎えて来た風格と温かさを感じる。小春がお勧めするだけあって、素敵な場所だ。 ただ、桜はもう散りかけだった。確かにもう散りきっていてもおかしくない時期だ。少しでも残っていただけ運が良かった。でも、満開の桜の写真を小春に見せたかった。 落ち込んでいても仕方がない。フゥと一つ深呼吸をした。洗練された新鮮な空気が胸一杯に流れ込んでくる。心が洗われるよう、とはこう言う気持ちなんだな、と思った。 気を取り直した僕が向かったのは鏡石、と言うものだった。山本勘助が使ったものらしい。本当に自然にあった石なのだろうか、と疑問が湧くぐらいにツルツルしていて、太陽は隠れているのにピカピカと光っていた。山本勘助はこれをどうゆう風に使ったのだろうか。鏡としてなのか、それとも置物としてなのか、僕は後者だと思う。鏡石に映った僕はお世辞にも鮮明とは言い難かったからだ。 これからどうすればいいのか考えていると、スマホが振動していることに気づいた。誰だろう、と思いながら画面を見ると、立花小春と表示されていた。僕は人差し指でおもむろにスワイプした。
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