令嬢の肖像画

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 しかし、今度ばかりは、かなりの動揺を覚え、狼狽しました。そうなのです。顔中包帯で覆われていました。しかも、左目の部分が空いているところまで同じなのです。令嬢は、暴漢に襲われ、顔が、そいつのかけた劇薬でただれたというのです。しかも、今から、包帯をとるかからそのとおりに描いて欲しいと。そして、令嬢が、その手を包帯にかけたときです。心臓の動悸が激しくなりました。持病の発作です。みるみる意識が遠のきました。ただ、かすかにサイレンの音だけは、記憶していました。  その後、意識を取り戻したのは病院の一室でした。医師の話によれば、令嬢が機転を利かし、すぐにAEDを施してくれたから、一命をとりとめたとのことでした。病院を退院し、アトリエに戻ると、くだんの絵は、そこにはありませんでした。その令嬢が持って行ったのでしょうか。もちろん、代金は頂戴してはいなかったのですが、命の恩人なので、別段請求しようとも思いませんでした。
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