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令嬢の肖像画
ブラームスの間奏曲。この曲こそ、今回の依頼の製作にあたり、我がアトリエのBGMにふさわしい楽曲でした。それというのも、意想として哀愁を込めたいと考えたからです。その依頼とは、令嬢の肖像画を描いて欲しいというものでした。ただ、普通、晴着あるいはドレスをお召し願うのですが、それでは物足らなくありました。何故か当世風におさめてはならないというインスピレーションを得たのです。現にその話しぶりも人に甘えたところがなく、とてもしっかりしたものでした。聴くと大学では自治会の役員あるいは学園祭の実行委員をされていらしたとか。その一方でどことなく翳りがあると感じました。それが艷やかで、モチーフに加えなければと考えました。
だから令嬢にはスーツをまとってもらいました。そして、安楽椅子に腰掛け、頬づえついてもらうポーズを願いました。ただ、表情は伏し目にし、憂げな雰囲気を漂わせたのです。私の作品は点描の手法によるスーパーレアリズムの絵画です。だけど、完成した作品に対し、失望されたみたいです。令嬢いわく、もっと病的な要素を醸し出して欲しいと。私も画家の端くれとして、丹精を込めた作品のしかも、その芸術性に触れられるのはいい気はしません。ただ、依頼を受けての肖像画に関しては、職人に徹することにしていましたから、その意思を尊重することにし、一週間後にお渡しする約束で描き直しました。思案の上、細身にし、目の下にありえないほどのくっきりとしたくまを入れたのです。
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