7人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
***
とりあえず、北風吹きすさぶ寒空で立ち止まらせるのも可哀想だったので、俺たちはコンロを切って竹下教諭を中に入れた。
「何やってんだ、お前たち」
叱責のテンプレのような出だしだな。
「まあまあまあ」
池田は臆することなく、うどんをよそった椀を竹下に渡す。面食らう彼だが、手に取るしかない。
「寒いし、鍋しようかって話になっただけですよ。ほら、卒業したら家を出るわけだし、自炊の練習も兼ねて」
池田は調子よく言い訳を述べた。漂う出汁の香りに竹下は眉をひそめたまま椀を覗きこむ。
「自炊の練習なら家でやれ。というか、鍋自体家でやれ。なんで学校でやるんだよ」
おっしゃる通り。
「家だとお母さんがうるさいから出来ないっす。ほら、うどん冷めますよ」
さりげなく勧める池田。
「うまいですよ、先生」
俺も援護に回る。すると、竹下はやれやれと首を振って床に座り込んだ。仕方なくうどんを箸でつかむ。
「ゆですぎだろ、これ。でもまあ、味は悪くないな……」
「うまいでしょー。先生も腹減ってたんですね」
うどんをすする竹下はバツが悪そうだったが、しかめっ面を崩してしまった。うまいものを前にしたら、さすがの鬼も眉間が緩むか……。
最初のコメントを投稿しよう!