綾女と蓮

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 ※※※  まるでお花畑のよう、というのが、女学校に入学したわたしの所感でした。  お父様の事業の成功により、年頃になったわたしは、ある名門の女学校へ通い始めました。  けれども、穏やかな日々は……どこか、空虚でした、  周囲の方々との仲は、悪くありません。  木々の景色が変わることも、先生方の噂話も、少女小説の話題も、決して嫌なわけではありません。 (わたし、おかしいのかしら。夢二や華宵の絵は好きだけれど、どの絵がよいかなんて、そこまでじゃないわ)  毎年変わる流行色や、着物の柄、文壇や新聞をにぎわすスタァに関してなど。  華々しい話題の数々に、どこか気持ちが、ついていけなかったのです。  めまぐるしい景色という意味では、幼い頃から手伝っていた実家の事業と、同じようだと考えもしましたが。 (そうした慌ただしさは、みなさん、されていないみたい)  華族の子女と、事業家として成功した子女。  同じように資産を持ちながらも、そこには境目がありました。  ただ、大きないさかいを起こすこともなく、日々は過ぎていきました  ――過ぎていくと、想っていたのです。
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