魂、撮らせてよ

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「ねえ、つーちゃん。知ってる?」  カメラのファインダーを通し、のどかはつららを見通すように、レンズのピントを合わせる。 「昔の人って、写真を撮られると、魂がとられちゃうって想ってたみたい」 「あぁ、そういえば。……あの頃は、驚いたわね」  昔の人間同様、自分も例外ではない。  それが今では、年間で何百枚も、山の景色を切り取られている。  ――残らないのは、こうしてのどかと話す、幻の様なつららだけ。 「……つーちゃんは、残らないのが、怖くない?」 「残らないのが、怖い?」 「うん。今の時代って、なんでも撮れるし、残せるでしょ」 「ははっ。独りは慣れてるしね」  つららとして一時の存在を得るのは、冬の間だけ。  そしてその一時も、温もりを求める仮初だ。 「……でも私は、慣れないよ」  ――来年、卒業するのどかは、もう学校にいない。 「くやしいなぁ。撮るの、自慢だったのに」 「……のどかの写真、私も、好きだよ」 「だから、魂、撮らせてよ。それなら、つーちゃん、都会でも一緒でしょ?」 「馬鹿だなぁ。魂とったら、消えちゃうじゃない」 「そうだね。私、馬鹿なんだよね」 「……でも、いくんでしょ」 「うん」  涙をこぼしながら、頷くのどか。  カメラマンという夢を叶えるため、彼女は、都会へと旅立つ。 (……確かに、とってしまいそうになる)  夢の選択と、しかし、相反する不安な心。  ともに過ごしたつららには、痛いほど、その迷いがわかっている。  だから、温もりを奪う手で、優しく抱きしめる。 「とるなら、写真にしなよ。……奪(と)られちゃ、だめだからね」  冬の幻にあるまじき、熱っぽい想い。  いつか独りでいることにも、耐えられなくなってしまうのだろうか。  そんな葛藤を隠しながら、二人は、しばしの別れに微笑みあう。 「また、とりにくるから。待ってて、つーちゃん。誰にも、とられずに」 「しかたない。また、私がとりたくなるくらい……暖かくしてて。のどか」  別れの言葉と、一つ鳴る、シャッター音。  ――その景色が現像されるのは、またいつか巡りくる、冬の暑い日のこと。
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