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「馬鹿じゃないの」
街から外れた山の上。
一人の少女が、カメラを携えている。
「あっ、つーちゃん。待ってたんだよ」
「……ほんと、馬鹿」
色白い肌をした和服の少女は、同じく白い髪をかきながら、ため息を吐く。
漏れでた白い吐息が、近くにあった木々をわずかに弾ませる。
――和服の少女は、人里にまぎれこんだ、山の精。
――つららと名乗り、暑さの枯れる冬に温もりを求め、人の熱を吸いあげる。
だが、人でない少女に臆することなく、カメラの少女は微笑みかける。
「もう、帰る季節なんだね」
「季節外れの雪だけれど、晴れれば、もう暑くなるでしょ」
「でも私、朝は布団から出られないよ」
「それなら防寒しなさいよ、のどか」
雪も舞う日に、少女――のどかは、手袋一つしていない。
髪に積もる雪が気になり、代わりに払う。
かすかに伝わる熱が指先をくすぐり、つららは、イタズラっぽく微笑む。
「このまま、山に引きずりこんじゃおうか」
「それ、楽しいかも! 山の四季が、いつでも撮り放題♪」
「……はぁ。馬鹿」
もう、何度目になる言葉だろうか。
のんきで、穏やかで、いつの冬に再会しても変わらない。
呆れるくらいに、のどかはいつも優しく、つららを迎えてくれる。
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