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「あっ、いいねその表情」
呟いたのどかの手先は早い。
だてに写真部へ在籍し、コンクールに受賞しているわけではない。
「許可もとらずに撮影するの、やめなさい」
「だってつーちゃん、いつもだめって言うでしょ」
キリキリ、と、カメラから音がする。
また新しいカメラでも、バイト代で購入したのだろうか。
「このカメラなら、絶対いい表情で撮れるから」
「……何度も試したじゃない。私は、残らないのよ」
つららは、人間とは違う。
精霊や幻に近いその姿は、カメラを通しても、形に残ることはない。
絵や文章にしても、彼女を表した姿は、越冬するごとに消えてしまう。
――のどかと始めて会った三年前から、ずっとそうだ。
「父さん、意外ともの持ちがよくて」
アナログフィルムのカメラなんだよ、と、説明するのどか。
「アナログ?」
「うん。フィルムもいいよね、すぐに見られないから。逆に、どうなってるのか楽しみ」
「……どっちでもいいわ」
つららにとって、のどかは不可解な存在だ。
初めに違和感を持ったのが、高一の初冬。
幻の術で、若い命が充満する高校に忍びこみ、捕食相手を探そうとした。
なのに、その術がきかず、むしろ積極的に熱を捧げてくれた。
(まぁ、私にとっては都合がよかったけれど)
不特定に相手を毎年変えるより、圧倒的に効率は良かった。
ただ代わりに、彼女とともに冬の景色を、たくさん撮りに行くことにはなったが。
ただ、カメラを通した彼女の視線やとらえ方は、つららの未知の部分を奇妙に惹きつけた。
それは、自分の分身である山を、こうもきれいに映し出せるのかと、感心したからかもしれない。
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