みっしょん8 安室、逃走

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「俺としては非常に納得がいかないんだけどな。どうやらこの引き抜きには生徒会の正式な許可も下りてるらしくて、部としては何も言えないんだ……くそっ! 公権力を利用するなんて卑怯だぞ! 恥を知れ! 恥を!」  待井の方も鈴に注意を向けることなく、罵声を浴びせながら東郷の話に注釈を加える。 「失礼だな。僕らは正式な手続きを踏まえただけのことだよ。文句があるんだったら、生徒会に直接言うことだね」 「く~っ…あの血も涙もない生徒会には誰も逆らえんと知っておいてぇ……安室っ! あとはお前次第だ! どうなんだ? お前はこの引き抜き、受ける気はあるのか?」  素知らぬ顔で生徒会の許可書をひらひらと手で振る極悪非道な東郷に、待井は悔しそうに地団駄を踏むと鈴に詰め寄り、鬼気迫る声で彼女に尋ねた。 「ひっ…!」  突然、憧れの先輩の甘いマスクが目と鼻の先に迫ったため、鈴は驚き、顔を真っ赤に上気させて大きく後に仰け反る。 「あ、こら、本人に圧力かけるようなことするんじゃない! 彼女も怯えてるじゃないか。それは明らかに本人の意思決定を歪める部の介入だ。生徒会の許可書を(ないがし)ろにする違反行為とみなすぞ? そんな真似をしてタダですむと思ってるのか?」 「うっ……」  権力を笠に着た東郷の脅しに、待井は短い呻き声を上げて沈黙する。 「さ、これで君を縛る者はいなくなった。心配せずに君の素直な気持ちで選んでもらっていい。どうだい? 将来、この濡良市のご当地キャラになるであろうゆるキャラの着ぐるみを着て、栄えあるこの町のスターになってみる気はないかい?」 「わ、わ、わたし……そ、そんな大役、で、できません……」  改めて誘いの言葉を述べる東郷に、鈴は震える声でなんとかそれだけを伝える。 「ハハハ、そんな大役だなんて。ああ、この着ぐるみに入る役はもう一人いるんで、そんな責任感じることないよ? まあ、君はそのもう一人の()の控えって感じで、簡単な気持ちで引き受けてくれていいからさ」  しかし東郷は軽やかに笑うと、なおも彼女の説得にかかる。
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