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○
「諭吉殿。大切な、大切な話がございます」
あくる日のことでありました。
私と一花は、アルバイトから帰って来た諭吉殿を、正座でお出迎え致しました。
諭吉殿は、全てを察したのでしょう。
一花をしばらく外へと追いやり、私と諭吉殿は二人きりで相対しました。
「福助さん」
何が行われるのだろうかと内心、肝を冷やしておりましたら、諭吉殿は冷蔵庫をあさり、いつかのように缶ビールと日本酒を持ってきたのであります。
「今日は月一の、晩酌の日でしょう。ま、たんまりと飲みましょう」
寛大で粋な計らいに、私は「ははあ!」と感涙しながらお酒をついだものですが、やはり一筋縄ではいかぬというのが現実ではありました。
「おめえ、こそこそこそこそと一人娘に手ぇ出しおってえ、何様なんだよお!」
空になった缶ビールで、ポカリポカリと頭を叩かれます。
かたじけないと頭を下げますが、口ではなんとでも言えらあと諭吉殿は口調を荒げます。
「……っちから言ったんです」
「は、はい?」
「どっちから告白をしたんです!?」
「それは、その、どちらからともなく」
「か~、いい年して、青春ですかい!」
しばらくは愉快に話をしておりましたが、次第に諭吉殿は落ち着きを取り戻してゆきました。
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