0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あん子は、本当に良い子です」
日本酒に口をつけ、諭吉殿はしみじみと言います。
「嫁を亡くしてから、何一つ文句を言わず、俺についてきてくれました。世界で、いんや、宇宙で一番ええ子やと俺は思っています。そんなええ子が、……歳のことはどうあれ、あなたを選んだ。それは疑いようもないほどに正しい選択なんだろうと思うんです」
「……はい」
「できますか、福助さん」
一花を、世界で一番幸せにできますか――私は、首を横に振りました。
「世界一。いや、宇宙一です、諭吉殿」
諭吉殿は、ふんと鼻で笑って、それからエンジンがかかりにかかって、ワーッハッハッハッハと宇宙に響き渡るぐらいに笑い転げて見せたのです。
「見せてもらいましょう! くは~、宇宙一幸せな娘の姿を!」
肩を組み、私たちはまたも馬鹿笑い。
どんちゃんどんちゃんと騒いでいると、「ただいま……」と恐る恐るといったふうに一花は帰って来ていたみたいですが、私たちは全く気づきもしないで酒をあおっておりました。
「福助さん、これ、ネタにしましょうよ。ええと、実の娘が年上のオッサンを拾ってきて、それが相方になったかと思いきや! いつの間にやらイチャコラしあって結婚! ターッハッハッハ、傑作ですよこれは!」
「事実は小説よりも奇なりですねえ」
「そのアンタが一番、奇妙奇天烈ですっての!」
「あらあら、こりゃあ失敬」
男二人で馬鹿笑い、馬鹿騒ぎ。
もしやすると、生涯で一番、愉快な日であったかのように思います。
「……ほんと、バカな人たち」
一花は、苦笑しながら、そう呟いていたのでした。
最初のコメントを投稿しよう!