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○
「全く、波瀾万丈な人生でございましたよ」
およそ四分半にわたり、面白可笑しく紡いできました半生語りも、終末であります。
「なんや福助さん、あんた死ぬんかいな」
「馬鹿を言わんといて下さい、諭吉殿。私はまだまだ死ぬこたあ、できません」
「なんでや」
「あなたの娘さん――私の嫁が言うとるんですわ」
「なんて?」
「まだ私、宇宙で二番目ぐらいに幸せやって」
「やかましいわ」
どうも、ありがとうございましたと頭を下げて、私たちは舞台裏へとはけていきました。
数千人の拍手が、未だやむことなく、鳴り渡っております。
「お疲れ様です、諭吉殿」
おうおう、と私と諭吉殿は緩やかに手を合わせます。
「今日もええ感じでしたよ、福助さん」
「……ふと、思ったことがあるのですが」
「なんです」
「娘さんを、宇宙一幸せにすることは無理やもしれません」
「それはまた、どうして」
「どうあがいたって、宇宙一幸せなのは、この私ですから」
諭吉殿は、口をあんぐり開けて、タハハと笑いました。
「福助さん、それはそれはいくらなんでもベタ過ぎですって」
「次のネタのオチに使いません?」
ペシ、と諭吉殿は、私の胸にツッコミを入れます。
「なんでやねん」
――ああ、私はやはり宇宙一の幸せ者なのだと、
ささやかに痛む胸を押さえながら、そう思うのでありました。
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