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「ほいでほいで」と私は本筋へと導きまして、「ただのオッサンではないと言いますと?」と諭吉殿に問いかけます。「白々しいやないの。あんたが一番よく分かってるやろう、福助さん」と諭吉殿は肩を小突いてきまして、私は何のことやら分かりませんと白を切ってみせます。
「いやらしいのう。ほな、私から言っても?」
「どうぞどうぞ」
「ほいだら、言わせてもらいますけれど」
この人ね、と諭吉殿は私を指さして、ひそひそ声で言うのであります。
「私の娘をたぶらかしおった、私よりも十個も年上の義理の息子なんですよ」
え~という悲鳴が、観客から上がりまして、私はにやりと笑ってしまいます。
「お義父さん、娘さんを下さい」
「やかましいわ! もうあげてもうたがな! ほんでお義父さん呼ぶなや、気色悪いわ!」
ワハハと、愉快な笑い声が響きます。
「今でも忘れられませんよ。この人が娘と結婚する言うてきたときのことは。当時の私が四十。娘は二十五。そいで五十のオッサン」
「私も驚きました。こんな若造が、私のお義父さんになるなんて」
「年上だけど、お前気をつけろよ。お義父さんだぞ」
「すみません、お義父さん!」
大げさに頭を下げてみせますと、やめいやめいと諭吉殿は慌てふためきます。
「福助さんに頭を下げられると、いけない組織のトップに見えるじゃあ、ないですか」
「すみません、ボス!」
「余計、露骨になっとるやないか、ボスちゃうがな!」
わっと観客は涌いて、私たちの漫才は、加速していきます。
「いやでもね、本当に諭吉殿には感謝感謝ですよ。あんないい娘さんと私を巡り合わせてくれたんですから」
言いながら、私は諭吉殿の娘さん――一花との出会い、そして諭吉殿とこの舞台に至るまでの経緯が思い返されました。
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