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「おおい、入るぞ」
彼氏でも帰って来たのかと思うたのですが、一花は「お父さん!?」と驚いたように呟いたのです。それから壁にかかっていたカレンダーを見て、「バイトの時間、勘違いしてた」と青ざめながら言うのでした。私も私で、てっきり一人暮らしをしているものかと思うていたのですが、とんだ勘違いなのでした。
「そこ、そこの押し入れに隠れて下さい!」
なあんてやり取りもむなしく、ガチャリと開いた玄関。きっと諭吉殿の視線の先には、間抜けにも上半身を押し入れに突っ込み、下半身だけがだらりとフローリングに投げ出された私の姿があったに違いありませんでした。
そのときに飛んだ怒号は、今でも鼓膜に張り付いておりまして。
「だ、誰やあ! その男はあああ!」
くわえて、観念無念と私が押し入れから出たときの、諭吉殿のきょとんとした顔も、網膜に焼き付いてもおります。
「……なんやこのオッサン。おい、一花。マジか。マジなんか」
「ち、違うから! そういうんじゃないから!」
一から十まで、なんなら百まで事情を説明し、懐深い諭吉殿は、そういうことかいなと私を受け入れてくれました。
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