宇宙一幸せなオッサンの漫才

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 やがて、諭吉殿は言うのです。 「なあ、福助さん。ここらで一つ、私と一緒にお笑い芸人をやるなんてのはどうです」  酔っぱらいの戯言(たわごと)かとも思いましたが、私は酔うた頭をグルグルと回転させ、真剣にお笑い芸人をやるということを考えておりました。同時に私は、これまでの人生を振り返っておったのです。  凡庸(ぼんよう)で、つまらぬ人生。  誰かを愛し、愛されたわけでもなく、何かを成し遂げたわけでもなく、目的・目標も不確かに、ただ流されるまま生きて生きて生きて、残ったのは使い道も分からぬ、およそ残りの時間を過ごすには十二分な銭と、惰性と怠惰に犯された残りの人生でございました。  私は、今の今まで、巡り合わせや運命などという幻想には不信心ではありましたが、こうして一花や諭吉殿と出会い、唐突に出来上がった人生の分かれ道。私がこれまで独り身であったのも、会社をクビになったのも、この時のためであったのではないかと、一人勝手に身を高ぶらせていたのです。 「良いですね、やりましょう、お笑い芸人」 「えぇ?」と素っ頓狂な声を上げたのは、他でもない一花でした。  諭吉殿は、その心意気や良しと言わんばかりにガハハと笑っておりました。 「よ、酔ってるんですよね、福助さん」  心配げに問う一花に、私は言ってやったのであります。 「酔ってはおりますが、この福助。記憶をなくしたことはございません」 「本気ってことですか」 「男に二言はありません」  ワーッハッハと諭吉殿は高笑いをして、良しや良しやと固い握手を交わしました。 「いんやあ、面白い! 面白い! 娘が拾ってきたオッサンとコンビを組む! こんな面白いことが世の中にありますか! いや、ない!」  その後に、もっと面白い事態が待ち受けているわけではありますが、とにもかくにも私と諭吉殿はこうしてコンビを組むことになったわけであります。  そうして、ぽつりと、一花は言うのでありました。 「……男の人って、みんなバカなのかな」
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