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夫が死んだ。ついこの間、どっちが先に死ぬかなんて馬鹿げたなこと話したばかりだったのに。まぁもういい歳だったものね。 後は私が追いかけるだけ。その時が来るまでもう少し待ってて。 そんな事を想いながら、あの人の遺品を整理していた。 彼が大切にしていた本が詰まった、古びた茶色の本棚はどこか寂しげで手がつけられずにいた。でもこのままこうしていても仕方が無い。そう思い本棚に手を掛けてみると、ふとそこに見慣れない一冊の本があった。 「あの人、こんな本持っていたかしら...」 しっかりした革張りの装丁で、厚くてとても重い。 表紙には、題名も作者も書いていない。 本を抱えた時に、よいしょ、と老人じみた掛け声が出てしまい、ふと自嘲めいた笑みを浮かべながら本を開いてみた。 1ページ目にはこう書いてあった。 「愛する妻へ」 ...驚いた。これは、この本は、彼が遺した日記だったのだ。しかも私に向けての。 生前あの人は、人前では驚くほど寡黙で仏頂面だった。それこそ愛の言葉なんて聞いた事ないくらい。家に帰るとその鉄面皮も解けて穏やかな顔をする人だったけど、それでも愛してるなんて言われたこと一度も無かったわ。 不満を呟く気持ちとは裏腹に震える手を抑えながら、日記のページをめくっていった。 ページをめくるごとに、夫婦の彩やかな思い出、彼の妻に対する深く優しい気持ち、そんなものが溢れかえってきて、まるで虹色の洪水が湧き上がってきたようだった。 「もう......伝えるのが遅すぎるわよ......」 日記にこぼした涙のシミは、彼が日記に綴った思いのように、いつまでも消えることは無かった。
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