第三章

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たまにすれ違う〝生きた人間〟は 身の毛もよだつ顔貌で、とても凝視出来ず何度も目を背ける。 魂が抜けた虚ろな有様は、さながらこの世を彷徨う亡霊のようだ。 タケシは ただの一般人から陸軍に志願し入隊していて、訓練は毎日受けているが まだ実戦経験はない。 更にこれまで一度も空襲に遭ったこともなく、その惨状は人伝てに聞くばかりだった。 空襲とは、こんなに恐ろしいものだったのか。 いや 聞いた話より何倍も、何百倍も凄惨なこの街の様子は 一体… 兄貴は 兄貴はどうなった? 行方不明だとはいえ、上手く何処かに逃げているだろうと楽観視していたタケシの頭には、最早 最悪の結果しか思い浮かばない。
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