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「兵隊さん」
最初、タケシは気づかなかった。
「兵隊さん、兵隊さん」
その〝兵隊さん〟が自分であることがわかったのは、腕を軽く引っ張られたからだ。
怪訝な気持ちで声の主の方を向く。
髪は煤けたように焼け縮れ、顔は赤黒く腫れ上がっていて、まるで化け物だ。
その恐ろしげな見た目に震え上がりそうになったが、何とか耐えた。
辛うじて足に纏わり付いているだけの、焦げたモンペらしい物を履いているのがわかり、やっと女だと気づいた。
「兵隊さん」
「な、何じゃ?急いでるんじゃがのぅ」
それは事実だ。
母から、兄のカツミが三日前から家に戻って来ないと、所属する陸軍部隊に泣きながら連絡があった。
こんな状況なら尚更 一刻も早く、生死を確かめなければならない。
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