第三章

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「そんな、しっかりしんさいや」 「兵隊さん、私は本川町(ほんかわちょう)の中田 敏子と言います。私の両親に会うことがあったら、敏子はここで死んだと伝えてください」 「何を言いよるんか!諦めたらいけんで」 まるで遺言のような女の言葉に驚き 思わず怒鳴ってしまったのに、女はゆっくりとその場に身体を横たえた。 「…あぁ、喉が焼けそうじゃ。死ぬ前に一目、お母ちゃんに会いたかった」 「あんた、死ぬなんて簡単に口にしたら…」 ふと 焼け爛れた女の双眼と視線が交わって、タケシは言葉が出なくなる。 女は、タケシから目を逸らさずに言った。 「私が何をしたって言うん?何でこんな地獄に落ちんといけんの?」 「…」 「もうゴメンじゃ。日本が勝っても負けても どうでもええわ。私は、たった一口の水が飲みたいだけなんじゃ!」
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